4622 主語 はくぶん 2013-10-09 15:54:10
おかしな文章と言えば、
先日とあるサイトで、こんな宣伝文句を見た。

『今宵もフラワーガーデンで幸福なひと時をあなたに』

さらっと読むと、別におかしな所はないように思われる。
しかし、この文章、何か違和感がある。
こういう言い回しはよく使われるが、
この文章には何か余計な部分があるように思われる。

『あなたに』 だろう。
こういうフレーズは『〜を』で終わるのが一般的である。
『〜を』の後ろに『どうぞ』や『お過ごし(お楽しみ)下さい』を省略するからである。
だから、こういうフレーズの場合、一般的に主語は『あなた』である。

では、この文の主語は?
フラワーガーデンでもなければ、あたなでもない。
もちろん、幸福なひと時でもなければ、今宵でもない。
つまり主語がないのである。
本来なら暗示的に『あなたが』となるところが、『あなたに』と明示してあるために、
無意識に誰が(何が)の部分を探すのだが、それが不明であり推測も不可能。
だから違和感を覚えるのだろう。

例えば、この文が『フラワーガーデンで』ではなく、
『フラワーガーデンが』なら違和感はないだろう。
ちょっと傲慢な感じがしないでもないが、文法的には正しい。
文章には表れていないが、『フラワーガーデンの店員』が主語になっている、
とする見方もあるだろうか。
一般にこういった宣伝文句には殆ど使用されることのない主語だが、
それが省略されているとする見方は、文法的には間違いではない。
しかし、そういった場合、客に対して店と店員は一体的に扱うのが通例であり、
店という集合的・象徴的な存在があるにも関わらず、それを差し置いて、
店員という個人を主体にした書き方は、日本の習慣上、殆どあり得ない。
だから、そういう場合も『フラワーガーデンが』とするであろう。

恐らくこの作者は、文の最後を『幸福なひと時を』ではなく、
『あなたに』で終わりたかったのだろう。
もしそうなら『フラワーガーデンで』を抜くべきだった。
宣伝文句として意味はなさなくなってしまうが、日本語としての違和感は回避できる。
その場合、主語は暗示的に『フラワーガーデンが』となるが、
直接書かれているわけでないので、少なくとも傲慢な感じは醸し出さないだろう。

この宣伝文句は、多くの要素を盛り込もうとして、返って余計な部分が出来てしまい、
全体として何か違和感のある文章になってしまった例であると言えるだろう。
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