7640 完成度と忠実度 はくぶん 2020-10-06 00:59:28
自分の設計したものが仕上がって来た時、「素晴らしい出来栄えに感動した」と言った客がいた。
しかし、彼は、その作品そのものの仕上がりに感動したのではない。
彼は、自分の設計したものが、その通りに仕上がったことに感動したのである。
つまり、彼は、自分自身に感動したのである。
だから、その作品がどんなに素晴らしい出来栄えであったとしても、自分の設計通りに仕上がらなければ感動しなかっただろう。

後日、そういう場面が訪れた。
作品としては素晴らしい出来栄え。
しかし、彼は満足していなかった。
当初の設計より、数段上の仕上がりになったにも関わらず、彼は感動していなかった。
彼の設計通りではなかったからである。

彼の設計の中にあった稚拙な部分が、制作者の優れたセンスによって、最適な形に変更されていたのである。
それにより、作品としての完成度は上がった。
しかし、彼は、当初の設計通り、稚拙な部分がそこに実現されていないことに不満だった。
彼には、それが稚拙だと分からなかった。
彼には完成度を見る目が無かった。
そして、実は、彼は完成度など求めてはいなかった。
彼が求めていたのは、自分の設計に対する忠実度であった。
作品の完成度がどうであろうが、自分の設計に忠実であることの方が、彼にとっては重要だったのである。
彼は単に幼稚なナルシストだったということである。

昨日、その彼から久し振りに会社に連絡があったようだが、少しも嬉しい気持ちにならなかった。
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