シュトルーデル 老人が、子や孫やひ孫たちに囲まれ、死の床に横たわっている。 老人の長く実りの多かった人生の最後に全員、目に涙をためている。 老人は昏睡状態であり、医者は24時間以上はもたないと確信した。 ところが突然に老人は目をあけ、かすかな声で言った。 「天国の夢をみていたに違いない。ばあさんのシュトルーデル(デザート菓子)の匂いがしたよ」 「おじいちゃん、夢なんかじゃないよ。おばあちゃんがいまシュトルーデルを焼いてるんだよ」 「おばあちゃんの、あのうまいシュトルーデルを食べちゃうと他のは  まずくて食えんよ。頼むから台所へ行って一切れもらって来てくれないか?」 老人は最後の力を振り絞って頼んだ。孫のひとりが老人の願いをききいれて 台所に飛んでいった。かなりの時間がたって、孫は手ぶらで戻って来た。 「もらって来てくれたかい?」老人は弱々しく質問した。 「ごめんね、おじいちゃん。でも、おばあちゃんは、これは葬式のときのよって言うんだ」