気分はブルース 男はただ歩いていた。 初デートなのに会って5分も経たずいきなり振られてしまった事を、 男はずっと嘆いていた。 気分を少しでも晴らしたくて、男はもう1時間近く町を彷徨っていた。 「俺はなんて軽率なんだろう」 もう何回も同じ事を考え、終わった事だと同じ結論をだし、 それでもまた同じ事を考えずにはいられない。 「俺は、、、、     っ!!」 何かが左肩にぶつかった。訝しげにそちらを見やると、 肩に手を当てた厳つい男がこちらを睨んでいる。 どうやらぶつかってしまったらしい。 すみませんと言いながら頭を下げて、去ろうとすると 「待てや、なんやその謝り方は!!」 「ちょっ、ちょっと待ってください!」 裾をまくり今にも殴りかかってきそうな形相の厳つい男を制止しつつ、 男は必死で次の言葉を考えていた。 よく見ると厳つい男の腕には桜吹雪のような模様が描かれている。 「もしかしてお子さんいるんじゃないですか?」 「あん?だったらどうしたっちゅうねん!!」 よし!と男は内心ほくそ笑んだ。相手はこちらの唐突な言葉に機先を削がれ、 力みながらも質問には何となく素直に答えてしまっている。男の言葉に力が入る。 「いえね、あなたの様子を見てると、家庭ではきっと素敵なお父さんなんだろうなと思いまして」 「、、、?ん、、、何を根拠に言っとるんや?」 完全に聞く体勢になっている厳つい男を見て、男は会話が自分のペースに なっていることを感じていた。 「その腕です。幼稚園児くらいのお子さんですかね?お上手ですね。今どきいないですよ 自分の体にまでお絵かきさせてあげる親なんて」 男の形相が一変する。 「言うに事欠いて、この桜吹雪を幼稚園児のお絵かきだとぉ!?」 彼の言葉を聞き、男は何が彼を怒らしたのか瞬時に理解した。このままじゃまずい、と焦る気持ちを抑えながら 男は謝罪の言葉を口にした。 「すみません!!お子さんは小学生だったんですね!!!」 その日男は生まれて初めて救急車に乗った。